写真をもっと上手になりたいと思い、写真について勉強し始めると早い段階で被写界深度という言葉が出てきます。被写界深度を分かりやすく説明すれば「ピントが合っているように見える範囲」のことを言い、この被写界深度を意図的に操ることで、写真のイメージを自分の好みに仕上げることができるでしょう。
この記事では、被写界深度についての基礎知識・調整方法・その効果を具体的に説明したいと思います。被写界深度を理解すれば自分の写真をレベルアップさせられますので、ぜひ参考にしてくださいね。
被写界深度の基本的な知識
世の中にある色々な写真を見比べてみると、写真ごとにボケ具合が違うと気づくことができるでしょう。
例えばメインの被写体である女性・背景にひまわりのシチュエーションがあったとします。
「女性にピントを合わせ、ひまわりまでくっきり写っている写真」
「ひまわりをあえてぼかして写している写真」
ボケ具合によって写真の印象がだいぶ変わると思います。
この2枚は被写界深度が違う写真となり、撮影者が自分のイメージを表現するために被写界深度を調整しているのです。この手法は一眼レフカメラ・ミラーレスカメラ・コンデジどの種類のカメラはもちろん動画でも同じです。
ちなみに今、近くにある何か1つのものをじっと見つめてみてください。周囲の背景がボケて見えることが分かりますか?人間の目もカメラと同じような動きを自動的にしています。背景がボケている写真は人間の視界に近い画像であると言えますね。
被写界深度の調整の仕方
被写界深度はカメラの絞りを使用して調整します。そしてその時の絞り具合を数値化したものがF値です。絞りの調整によってF値がどう変わるのか、それによってピントの合う範囲の違いを表にしてみましょう。
ボケが強い写真 | ボケが弱い写真 | |
ピントが合う範囲 | 狭い(浅い) | 広い(深い) |
絞り | 開く | 絞る |
F値 | F値が小さい | F値が大きい |
大小関係が呼び方によって変わるので、覚えにくいと感じるかもしれませんが、アナログカメラと違い、デジタルカメラで調整するのは絞りではなくF値です。覚えやすくまとめるためにF値のみで考えてみましょう。
- F値が小さい=ボケが多くピントが合う範囲が狭い
- F値が大きい=ボケが少なくピントがある範囲が広い
これだけ覚えてしまえば撮影に問題はありません。
ただしカメラの雑誌や記事を読む場合や、カメラの話をする時には「ピントが浅い写真だ」「絞りを絞って」などの言葉が何度も出てきますので、より深く写真を学びたいのであれば知っておく必要がありますね。
絞りの構造と役割
カメラにとって絞りとはどのような役割を持っており、被写界深度に関係してくるのかをまとめました。
カメラは絞りで光を取り込む量を決めている
絞りとは、カメラのレンズから光を取り込む穴のことを言い、その穴を開閉することで、レンズからどの位の光をカメラに取り込むかを調整できます。
- 絞りを絞る=取り込まれる光が少ない=F値が大きい
- 絞りを開く=取り込まれる光が多い=F値が小さい
つまり、F値が大きい写真の方がF値が小さい写真よりも暗くなってしますので、多くの光源を必要とします。そのため薄暗いところでF値が大きい被写界深度の深い写真を撮影したい時には、ISO感度を上げる・シャター速度を下げるなどの調整が必要です。
絞りで被写界深度を調整する
絞りによる光の調整についてお伝えしましたが、絞りの開閉は被写界深度の調整方法でもあります。
1cm程度の穴が合いているものを覗き込み、近くに置いてあるものを見つめてみてください。穴を通してみる前よりも、穴を通してみた後の方が対象物の周囲の背景がボケが小さくなりくっきりと見えるようになるでしょう。
この穴がカメラで言う絞りです。絞りは人間の目と同じ原理でボケの調整ができているということですね。
カメラの絞り以外での被写界深度の調整
被写界深度は絞りで調整するものですが、他にも絞りでの調整を前提として、さらにボケを操る方法があります。この方法もマスターすればさらにボケを自由自在に操れるようになりますよ。
被写体と背景・被写体とカメラの距離による被写界深度の調整
絞りと合わせて使うと効果的な方法として、被写体と背景の距離・被写体とカメラの距離の2つ調整があります。その距離とボケの関係性を表にしました。
ボケが強い写真 | ボケが弱い写真 | |
被写体と背景の距離 | 遠い | 近い |
被写体とカメラの距離 | 近い | 遠い |
つまり、ボケ感の強い写真を撮りたいのであれば絞りの調整だけでなく、被写体と背景の距離があるシチュエーションで被写体に近づいて撮影を行えば良いでしょう。
被写界深度とレンズによる被写界深度の調整
被写界深度に関わる要素のもう一つは、レンズです。被写界深度は同じF値であっても使用するレンズによって背景のボケが違ってきますし、そもそもレンズごとにF値が小さいレンズと大きいレンズが存在しています。
- F値が小さいレンズ
「明るいレンズ」と言われ、そのF値の例は50mmF1.2、28-70mm F2.8など - F値が大きいレンズ
「暗いレンズ」と言われ、そのF値の例は50mm F2.8、24-105mm F4など
単焦点レンズは明るいレンズが多いためにF2以下、ズームレンズや超望遠レンズは構造上暗くなりがちなのでF2.8以下であれば「明るいレンズ」であると言えるでしょう。
そして一般的に明るいレンズの方が暗いレンズに比べて価格が高くなります。ボケにこだわった撮影をしたいのであれば、レンズ選購入時に最小F値を確認しておきましょう。
このようにレンズによって被写界深度が変わるということも理解しておく必要がありますね。
被写界深度別の特性とデメリットや注意点
被写界深度を操れば自在に画像のイメージを変えられますが、その被写界深度ごとに特性や注意点はもちろんデメリットも存在します。被写界深度が浅い・深いの2つに分けて説明します。
被写界深度の浅い写真
まずは被写界深度の浅いボケの強い写真について説明しましょう。
被写界深度が浅い写真が得られる効果
メインの被写体のみにピントが合い背景がボケている写真は、被写体を引き立てることができ、誰がみても画像の主役が分かりやすくなっています。
背景のごちゃごちゃとした部分をぼかせば、写真全体がすっきりとしますし、伝えたい内容も伝えやすいですね。
また、ふわふわとした幻想的な雰囲気になりますので、写真全体を温かみがありやわらかく優しいイメージに仕上げることができるでしょう。
被写界深度が浅い写真がお勧めのシチュエーション
- ポートレート
- テーブルフォト
- 雑誌
- 広告
特にやわらかさや可愛らしさを表現したい女性や子供、動物の撮影にも向いています。
被写界深度が浅い写真のデメリット
被写界深度が浅い写真のデメリットで、まずあげられることがピントのずれです。被写界深度の浅い写真は単純にピントを合わせられる範囲が狭くなりますので、ピント合わせによく注意する必要があります。
一般的には人物を撮影するのであれば瞳にピントを合わせるのですが、両目が見える場合はカメラに近い方の目にピントを合わせるとのが良いでしょう。
さらに被写体深度が浅い写真ばかり撮影していると撮影スポットを変更していたとして写真に変化が感じられず、見る人を飽きさせてしまいます。複数枚の写真を必要とする場合は被写界深度の浅い写真ばかり撮影しないようにしましょう。
被写界深度が浅い写真の応用
被写界深度が浅い写真と言えば、手前にいるメインの被写体にピントが合い、背景をボカして魅せる画像が浮かびますが、その他にも「前ボケ」というテクニックがあります。
「前ボケ」とは、あえて写真の背景にあるものにピントを合わせて、手前にあるものをボカすこと。
例えば花畑の奥にあるベンチに座った女性を撮影するのに、花を前ボケさせれば独特の雰囲気を演出できますし、女性に視線が集まります。
このように、被写界深度の浅い写真はピントを合わせる部分を工夫することで、さまざまな楽しみ方があるのです。
被写界深度の深い写真
被写界深度が深い写真は、別名で「パンフォーカス」とも言われます。フレーム内に入る被写体の手前から奥にあるものまでくっきりと撮影できている写真のことです。
被写界深度が深い写真が得られる効果
写真の端から端までしっかりとピントが合うことで、写真を見ている人に多くの情報を伝えられるという特徴を持っていますね。
また、見晴らしの良い景色や夕日・朝日・星空などの撮影にも適しており、迫力のある映像を演出できるのです。
被写界深度が深い写真がお勧めのシチュエーション
- 風景撮影
- 商品撮影
- メニュー撮影
- インテリア撮影
または背景を生かしたポートレートや旅行スナップにも最適です。
被写界深度が深い写真のデメリット
被写界深度が深い写真は絞りを絞った撮影を行うので、被写界深度の浅い写真よりも周囲の光量が必要になります。
そのため撮影スポットによっては、ISO感度やシャッター速度の調整をしながらブレを防ぐために三脚を利用するなどの工夫も欠かせません。特に薄暗い室内や夜間の撮影で被写界深度の深い写真を撮りたいと思っているのであれば、万全の準備が必要ですね。
また、明るい場所で遠くの景色や集合写真など被写界深度の深い写真を撮影したいと思ったときに、絞りを絞れば絞るほど画像がシャープになるという考えは危険です。
F値を上げすぎると「小絞りボケ」という現象が発生し画像の解像度が落ちてしまうのです。
レンズやカメラによって違があり、小絞りボケの心配が不要な場合もありますので、自分のカメラの特性を把握しておきましょうね。
被写界深度が深い写真の応用
画像全体にピントをくっきりあわせたいのに、光量の関係や背景との距離など自分で変更ができない要因で理想のシチュエーションを作り出せないことはあります。
そんな時に必要できるのが被写界深度合成というテクニック。三脚を使ってカメラを固定し、被写界深度を深くし、ピントを手前の被写体・奥の被写体ごとに撮影します。最終的にパソコンを使用して複数の写真を合成すれば、全てにピントが合った写真をつくることができます。
被写界深度合成をした風景写真は、非常に迫力のあるものに仕上がりますので、画像合成に興味がある人は、試してみるのも良いですね。
被写界深度の注意点
被写界深度を調整するにあたり、理想のボケを表現するには絞りの調整でなく光やシャッター速度の調整も必要であり、単純にF値だけを考えれば良いというものではないとお分かりいただけたかと思います。
写真撮影には撮影スポットのシチュエーションと撮影したいイメージの両方を考慮した設定をする必要があり、その撮影ごとに設定を変えなくては理想通りの画像は撮影できません。
被写界深度の影響がない写真
基本的に、被写界深度を変えることで写真のイメージは変化するものですが、シチュエーションによっては被写界深度を変えても写真自体がさほど変わらない仕上がりになる場合もあります。
例えば床の上に紙が数枚落ちていて、真上から撮影する場合、ピントを合わせるのは紙、背景は床ですが、2つの間に距離が全くありません。
そのため、被写界深度を変えてもボケる部分がなく、写真の仕上がりに変化が感じられないのです。奥行きのないシチュエーションでは、被写界深度を楽しむことは難しいと言えますね。
絞り優先モード(Aモード・AVモード)について
被写界深度を操るためにはマニュアルモードでの撮影が一番細かな調整ができるのですが、初心者の方の中には「マニュアルモードは操作する事項が多すぎて難易度が高い」と感じる方もいるようです。
そんな方にお勧めできるのが絞り優先モード(Aモード・Avモード)での撮影。
マニュアルモードが絞り・ピント・ISO感度・シャッター速度を自分で調整しなくてはいけないのに対し、Aモード・Avモードが必要とする調整事項は絞りだけです。
あとは自分が望むボケ感のF値を指定すれば、その他の調整をカメラが自動的に行ってくれます。
ちなみに絞り優先モードはニコン・オリンパス・ソニーではAモード、キャノン・ペンタックスではAvモードと表現されていますが、その内容はどのメーカーも同じです。
ただし、F値を高くすると比例してシャッター速度が遅くなります。あまり明るくない場所で絞り優先モードの被写界深度が深い写真を撮る場合には三脚を使用すると良いでしょう。
まとめ
被写界深度についての知識や効果を注意点も踏まえて説明させていただきました。被写界深度を操るだけで写真のイメージを大きく変えられると感じられたのではないでしょうか?
まずは何度も撮影を楽しんでみて、自分のカメラのF値を変えることでどのような画像が撮影できるのかの感覚をつかんでいきましょう。他の人が撮影した画像を見て、理想的なボケ表現があればその画像に近いボケを練習してみるのも良いですね。
被写界深度を自在に操れるようになればプロのような写真を簡単に撮影できるようになりますし、慣れてしまえば「ボケを強くしたいから・・F値をひくく・・」などと考えることもなく感覚的に操作ができるようになりますよ。
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